「私にとって結婚は終身刑みたいなものだよ」。私の尊敬する先輩がこんな風につぶやいた。この先輩は奥さんと性格的に合わず、けんかを繰り返していた。「仕事はどんないやな仕事でも定年退職でやめられる。しかし、結婚が失敗だったら、いやな人間と死ぬまで同じ家で生活しなければならない。一種の地獄だよ」。それなら離婚すれば、いいようにも思えるが、子供がいるため、簡単には決断できないようだ。
私は結婚について多くの人にアドバイスを求めたが、概して、幸福な家庭を築いている人より、夫婦仲がもめている人の発言の方が味わい深かった。「家での晩酌がおいしい人間は幸せだと思います。本当の幸せというのはそんな小さいところにあるんです」と話してくれた先輩は毎晩、飲み屋で晩酌をしていた。
「夫婦仲が良くないというのは、いつも紙やすりをすり合せているようなトラブルが生じるということ。しかし、そんな夫婦でも長く続けていると、紙やすりでも最後は表面の研磨剤が取れてつるつるになるように、ぴったりと合う瞬間もあるのです」とアドバイスする先輩もいた。これについては、いまだに本当がどうかわからないが…。
古代ギリシャの哲学者で悪妻に悩まされたと言われるソクラテスは「ともかく結婚せよ。もし君が良い妻を持ったら、幸福になるだろう。悪い妻を持ったら、哲学者になるだろう」と言ったとされる。確かに、結婚がうまくいかないと、人生を考える局面が多くなる。だからこそ、その思考過程を経た言葉は味わい深いのだ。1回の結婚でうまくいっている人より、苦労している分だけ魅力的な人も多い。
しかし、哲学者になれる道を選ぶか、幸福な結婚を選ぶかと問われれば、迷うことなく幸福な結婚を選ぶ。
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