お見合いの日程がたて込んでくると、相手の女性の名前を覚えるのが大変になってくる。お見合いの席で、うっかり間違って別の女性の名前を呼べば、その場の空気が一気に零度以下になるほどに凍りついてしまうからだ。
同じ週末の土曜日と日曜日に連続でお見合いを入れた場合、日曜日に会う女性の名前は土曜日に会った女性の名前と混同しないように、日曜日の朝になってから相手の釣書をじっくり見て覚えるようにした。しかし、そんな時に限って寝坊をしてギリギリの時間に自宅を飛び出し、お見合いの会場に向かうような羽目になることが多かった。
「お見合いの場所に行くまでに、釣書を見て相手の名前を覚えればいい」と思って釣書を上着の内ポケットに入れても、釣書を広げて見ることができるような場所は意外にない。
釣書は新聞と違って電車の中で広げるわけにはいかない。約束の時間より早く着いたからと言って、お見合い場所のホテルのロビーで釣書を見るのも他の人の視線があるからできない。結局、ホテルのトイレに入って釣書を広げるという間の抜けたことをせざるをえなくなる。
トイレの中で相手の女性の名前を即席で覚えようと、「●●さん、●●さん」と何回も繰り返して暗唱した。私に学習効果が全くなかっため、同じような局面になったお見合いも多く、同じホテルの同じトイレで何度もこの暗唱を繰り返した時期があった。一時は「それを近くで人が聞いて『あそこのトイレは人の名前を呼ぶ声がする』と怪談話が広がっているのではないか」と本気で少し心配になった。
お見合いの常として複数の女性と並行してお付き合いすることもあった。そんな時も名前を間違えないように神経を使った。電話をする時は手元のメモに女性の名前を書き付けておき、それを見ながら話した。
お見合いの後、デートを重ねるようになると、いつまでも苗字に「さん」付けでは堅苦しい感じが続いてしまうので、「下の名前で呼んでいいですか」と頼んで、下の名前に「ちゃん」付けで呼ばせてもらうようにした。大抵の女性はすぐに了解してくれたが、銀行員の女性から「だめです。苗字で呼んでいただきます」とぴしゃりと断られてびっくりしたこともある。
多くのお見合いをしたので、よくある名前の女性とは大抵、会ったことがある。つまり、私には多くの女性のファーストネームの1つ1つに少しずつお見合いの思い出がついているわけだ。テレビドラマを見ていると、「●●さん」とか「●●ちゃん」と女性の名前を呼ぶシーンなどで、知った名前が出てきてギクッとすることがある。
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