お見合いは結婚相手を見つけるためのものだ。だから、お見合いやその後のデートで、相手との相性が良くないと思えば、後で仲人さんを通じて断ればいいだけのことだ。しかし、新聞記者の職業柄か、私の変な“正義感”が影響して、お見合い相手と激しい議論をしてしまい、相手に感情的なしこりを残してしまったことがあった。
大阪のOLはお見合いした日、レストランで食事をしていた時、一般的に「マルチ商法」と言われるビジネスを友人に誘われて副業として始めたことを得意げに話し始めた。「楽してお金が入るし、いい商品だから皆、喜んでいます。私が紹介した人たちが稼いでくれたら、私の収入が増えるし、とてもいい仕組みだと思います」と屈託なく、マルチ商法の説明をした。その直前にお見合いした神戸のOLも同じマルチ商法の会員だったことから、私はマルチ商法の広がりに驚いた。
警視庁のHPによると、マルチ商法とは、商品を販売しながら会員を勧誘するとリベートが得られるとして、消費者を販売員にして、会員を増やしながら商品を販売していく商法のことだ。
化粧品や健康食品、健康器具などいろいろの商品がこの商法で売られる。販売員になると高い利潤を得ようとして、たくさん仕入れをしてしまったにもかかわらず、思ったほど会員を勧誘できず、仕入れた商品をさばけないため、売れない商品を大量に抱えてしまうといった問題が生じやすい。このため、「特定商取引に関する法律」により「連鎖販売取引」として厳しく規制されているという。
マルチ商法が社会問題になり、マスコミなどで取り上げられている状況が彼女の目には入っていないわけだから、そのバランス感覚のなさは結婚相手としてNGだと私は思った。彼女の話を聞きながら、私は「後で仲人さんを通じてお断りしよう」と決めた。しかし、私は彼女にマルチ商法の問題点を教えて目覚めさせてあげようというおせっかいな気持ちになってきた。
私は取材活動や日ごろの報道で多少の知識があったから、議論に熱が入り始めた。各地の消費者センターや自治体などに消費者からマルチ商法について多くの相談が寄せられたり、マルチ商法の会員がたくさんの商品を仕入れすぎて生活が破綻(はたん)した実態などを説明した。最初は「さすが記者さん。おくわしいですね」と余裕の表情を見せていた彼女も私の議論を聞いているうち、顔をしかめるようになった。
やがて、彼女は私の話をさえぎり、「私たちのビジネスはあなたが言うような『マルチ商法』でも『ねずみ講』でもありません。私はまだ、それほどでもありませんが、私の仲間はこのビジネスでお金持ちになっています。あなたはそんな話を聞かされて、ねたましくなって、私の言うことに反対するのでしょう」と言い出した。
この段階で、さすがの私も興ざめして議論するのをやめた。2人の間の空気は凍りつき、私は話題を変えたものの、彼女の機嫌は直らなかった。レストランを出て、彼女と別れてから私は「この場限りのお付き合いだったのに…」と後悔した。私は翌日、仲人さんに電話してお断りの返事をしたが、仲人さんにはその前に彼女からお断りの返事が届いていた。
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